右肩上がりの経済成長がもはや望めない現在、企業に特に問われるのは、イノベーションの推進だろう。ドラッカーは、著書『イノベーションと企業家精神』(1985年)の中で、イノベーションのための7つの機会を明らかにしている。
①予期せぬことの生起、②ギャップの存在、③ニーズの存在、④産業構造の変化、⑤人口構造の変化、⑥認識の変化、⑦新しい知識の出現、の7項目がそれだ。ここでは、中でも特に重要な「①予期せぬことの生起」について、若干説明しておこう。
ドラッカーの言う「予期せぬこと」には、「①予期せぬ成功」「②予期せぬ失敗」「③その他予期せぬ出来事」の3つがある。ここに大きなイノベーションの機会が隠れていると、ドラッカーは繰り返し指摘する。
たとえば、当初期待していなかった顧客層に製品が売れるとか、入社間もない新人が思いもよらぬ売上を達成するとかなどは、いずれも予期せぬ成功のひとつだ。逆に、当然成功するはずの商談が不発に終わるなどは、もちろん予期せぬ失敗に相当する。さらに、まったく予期せぬ顧客や流通チャネルのパワーが増大するなどは、その他の予期せぬ出来事に分類できるだろう。
通常これらの出来事は、偶然として済まされてしまうのが一般的だ。しかし、このような予期せぬ出来事は、前提としてとらえていた市場や、顧客などに、何らかの変化が現れたため生じたとも考えられる。したがって、変化の核心をいち早くとらえることで、イノベーションを起こせる可能性が、十分にあるというわけだ。
予期せぬ成功、予期せぬ失敗、予期せぬ出来事が発生したら、その背景に環境の変化がないかを分析する。これが、イノベーションを起こすための、最も有効な機会になる。
以上、ドラッカーが提唱したマネジメント論の基本中の基本についてふれた。次回はドラッカーが、ビジネスパーソンの自己実現についてどう語ったのか、この点について述べることにしたいと思う。
参考文献
*1 ドラッカー「ドラッカー全集5 職業選択と生きがい」(1972年、ダイヤモンド社)P276
*2 ドラッカー「マネジメント(上)」(1974年、ダイヤモンド社)P6
*3 ドラッカー「明日を支配するもの」(1999年、ダイヤモンド社)P45
*4 ドラッカー「マネジメント(上)」(1974年、ダイヤモンド社)P59
*5 ドラッカー「新訳 現代の経営(上)」(1996年、ダイヤモンド社)P49
*6 ドラッカー「マネジメント(上)」(1974年、ダイヤモンド社)P100

